水墨牡丹之図

村上華岳 作品

水墨牡丹之図

華岳は牡丹の花を好んだようでかなりの点数の作品がある。淡く匂ふようなやわらかさが、淡墨と濃墨のやさしい溶け合いの中に表現されている。
このぼかしは技術的には、一見やさしそうだが、この発墨はなかなか困難なものである。淡墨に濃い膠を加え、乾燥の時間を伸ばし、ぽったりとした、牡丹の花の心の厚さを、さりげなく表出している。

私自身、若い時華岳のこの技法にあこがれて、いろいろ試してみたのを思い出す。実際、濃い墨色の葉は薄く、淡い墨色の花は厚くさりげなく深く、さらりと表現するのは尋常のことではない。
なお、この華岳の駒形コレクションは、三十五年にわたるそうだが、この絵は最も早い時期のコレクションであるそうだ。

華岳『畫論』の中で、華岳自身、「水墨の牡丹など、墨に泥を混へるとか、青墨にするとか、そんな工夫も、なかなか苦心をするが、それが作家の考えているやうな精神気魄が、それで果して紙の上に十分出てくるかどうか―などといふ苦心は面白くもあり、難儀でもある。

この境地は、作家で無いと分からない。」と述べている。(加山又造)
(駒形十吉(編)『村上華岳』長岡:駒形十吉記念美術館、1994年)

【制作年】
1930(昭和5)年

【材質】
紙本彩色・軸

【寸法(cm)】
31.4×72.2cm

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